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あまりに明るいというのは何だなと思い、
繻子のカーテンを引いて、ついでに天井から灯る柔らかな明かりを落として。
まだ陽のあるうちというのは隠しようもなかったが、
それでも結構薄暗くなった中、
ベッドサイドの小ぶりなライトだけを淡く灯せば、似非の宵刻が出来上がる。
「敦。」
そおと隣に身を横たえる彼なのへ、
さわさわ わしわしと、シーツを擦る音がいやに耳について。
それに紛れるように、いやさ、
もしかして相手に届いてないかと心配になるほど、
ドクドクという胸の鼓動が、耳元でも増幅されてて うるさいくらい。
だったので、改めて名を呼ばれ、敦はふるるっと薄い肩を震わせる。
“…緊張が抜けないよぉ。////////”
何も怖がらなくていいと言われた。
そこまで太宰から聞いていたのか、
もし万が一にも我を忘れ、自制も解けてしまって
あの月下獣が降りたとしても、
中也の異能で押さえつけるから案ずるなと。
身食いをするようなら太宰を呼びもしようと説かれたので
そちらは安心出来ており、それはもはや二の次で。
シャツ越しに伝わる相手の体温とか、タバコと香水の匂いとか、
肩先からこぼれてくるのが触れる髪の感触とか、
しっかりした肉づきの隆起だとか。
中也を構成する何もかもが 敦をドキドキと追い上げる。
“…。//////////”
そもそも誰かに禁じられてなんかいないこと。
強いていやあ、公序良俗に触れるか否かが問題かもしれず。
未成年の子を相手にふしだらな行為の無理強いはいけないとかどうとか、
大人の側である中也の良識が
どの辺をボーダーラインにしているかを問われるだけなのであり。
「……。」
このような異常事態にあって、
敦の身が慣れない熱に侵されて辛かろうということから、
キスやハグより進んでいいんだと、双方で何とはなく合意しはしたが。
求め合う心の導くままに、もうちょっと、
あのその……例えば、手や顔以外へ、キスしても、いい、のかな?と。
わざわざ相手へ訊くものじゃあないとは判っているのだろうが。
「あの、な?」
淡い明るみの中、
いいか?と目顔で問うてくる中也なのはいつもと同じ。
でも何だか、いつもの
“不意打ちは紳士的じゃあないから”という訊きようとは、ちょっと違うような。
それを意識したせいか、もうすっかりと赤いままの目許をたわめ、
敦が 頑張って“はい”と頷く。すると、
掻い込まれていた腕の輪が少し狭まって。
心持ち 身を起こした赤毛の兄人の吐息がかすかに甘く届くのがドキドキを誘う。
そっと撫でられた頬が熱いのは、
彼の頬が間近になったと伝えているからで。
さりと触れたところがくすぐったいと思う間もなく、
少し乾いた熱い唇が触れて来て。
“ああ、気持ちいいなぁ…。/////////”
体中を縮めるよにして押さえつけなきゃいられなかった
得体の知れないもやもやも、
今は鳴りをひそめて静かになってる。
ぎゅうと抱きしめられたことで胸と胸がくっついていて。
なのでと伸ばした腕を 彼の堅い背中へ回せば、
その腕が脇や背の曲線に添い、
隙間なくの もっと密に一つになれて。
触れるだけの軽やかなキスから、
もっとと互いに呟いたようなその隙間を咬み合わせ。
もどかしげに少し吸いついての蹂躙をし合っておれば、
かすかに水音が立って、それがますますと“もっと”を煽る。
息が続かずに僅かほど離れれば、
はあと大きく息をつき、
だが、その手は中也の肩口と背中から離れないまま。
そんな二人の間から、
…どうしよう。///////
戸惑うような声がして、
「敦?」
息がつらいのかと案じた中也が、
やや俯いたままの愛し子をのぞき込めば。
火照ったように赤くなったお顔を上げ、
潤みの増した眸が見つめ返してくる。
もじもじとためらっていたものの、じいと見つめ続けておれば、
ややあって…ぎゅっと目を瞑ったまま えいと口にしたのが、
「中也さんが好きです、好きすぎて怖いほど。///////」
そんな切なる一言で。
いつものキスだけでは何か足りない、
もどかしい何かが ほとびようとして止められない。
でもじゃあどうしたらいい?と、見上げて来る眸の潤みが小さく揺れて。
まるで“助けて…”と困り切っているようで。
“あ…。//////”
そんな彼へ、中也の心持ちも自然と強く振り絞られる。
年端もゆかぬ子どもの紡ぐ、拙い初恋のようだと笑うなら笑え。
私が大事なら言うこと訊いてと、人を振り回すような試すような
面倒くさいばかりで真実がなかなか見えぬ、
駆け引き三昧な大人のお付き合いを知らぬじゃないが、
そんなもので鎧う必要なんてないとする、
無垢で素直な心根を差し向けられては
掛値のない愛おしさがますますと込み上げるというもので。
「…俺も同じだ。」
やさしく低められた声が合わさった胸を伝って甘く響く。
軽々しく言ってはいけない文言なのかも。だのにね。
こうまで愛しいキミを前に、言わないでおけるはずがない。
「…辛かったろうし、怖かったろうにな。」
今までこんな不安定なもの経験したことなかったろうに。
ややこしいもの浴びたばっかりに、
抑え込んでも去ってはくれぬ、叫び出したいようなムズムズに蹂躙されて、
発散させるにはどうしていいのか判らなくって。
むずがるようにやっと助けてと訴えてきた幼いお顔へ、
ギリギリまで手を出せなくて済まなかったなと囁きかける。
頬へこぼれた髪を、鬢から差し入れた手でそおと梳き。
すっかりのしかかってしまわぬよう、敷布の上へ肘をつきつつ、
上からゆっくりと覆いかぶさって。
唇で唇へ軽く触れてやりながら、
おとがいを撫で、そのまま喉へと指先をすべらせれば、
「…っ、……。///////」
一瞬、口元が震えた敦だったが、
そのまま顎を少し上げ、白い喉元を晒してみせる。
いつぞやに同じ場所へと中也が唇を寄せたの覚えていたらしく。
吐息が震えているのが痛々しくも見えたけれど、
触れていたおとがいから するりとすべり込めば、
さらさらとした きめの細かな肌の柔らかさが、
まるで向こうから吸いついて来るような感触で。
あまりになめらかな優しさに、
ああやっぱりだ、触れるのをやめられぬ。
唇の先でなめらかな肌を撫でるように辿り、
ところどこで辛抱たまらず舌先でも触れれば、
「…ん、…くぅ…。////////」
くぐもった声が隠しきれずに微かにこぼれ。
切れ切れに聞こえるか細い声が、こちらの体の芯へまで届くようで、
勝手な感慨ながら何とも罪深いと感じてしまう。
他人の手が触れるという体験さえ初めてだろうし、
またたびという媚薬のせいで過敏になっていようから、たいそう強い刺激かも。
下肢は避けたままという格好だし
重さこそ加減しているが、それでもその身が重なっているので、
ただならぬ圧迫感だってあろうにと。
何か堪える声もして、辛そうだというのも判ってはいる。
何より、“それ”をこそ施すための抱擁のようなもののはずだったのに。
どうしよう、どうしようか。
いつもの日頃なら これで終しまいなのにね。
じゃれ合うようなキスを何度か交わし、
うふふと笑い合って、おでこ同士をくっつけたりして、
じゃあまた明日と、くっつき合ったまま眠りの底へ共に向かうだけなのに。
この睦みはそれとは微妙に違うそれなのだと、今になって思い出し、
大きに躊躇している彼なのへ、
「…ちゅやさん?////////」
顔こそ浮かせたものの、陰の斜めに落ちた喉の下、
先日は酔いに任せて吸い付いたらしい、
シャツの襟辺りから目が離せない。
そおとその上から手を伏せれば、
下からちょっぴり深爪した小ぶりな手が持ち上がって来て。
肩からこぼれ落ちていた髪を耳朶の縁へと掻き上げてくれて。
さすがに過ぎたおイタを諭すのかと思えば、
「…あのね、ボクは全部中也さんのなんですよ?」
髪を掻き上げてくれたのは良く見えるようにか、
ちょうど、いつぞやに鬱血痕を残した辺りへと伏せた手を、
敦もまた見下ろしていて、そんな風にそれは静かに囁いた。
「そこも、さっき触れてた頬も、
この手もそうだし、眸や口も肩も背中も、
ボクはみんな中也さんのものなんです。」
「あ…。//////」
欲しい触れたいと浅ましいこと思ったのが筒抜けだったか、
それを思うと何とも恥ずかしい。
気圧(けお)されたように 二の句を告げぬままでおれば、
「………ねえ、何とか言って下さいよ。恥ずかしいですよぉ。///////」
照れ隠しか、くしゃりと顔を歪め、
指へ搦めたままだったこちらの髪、軽く掴んで崩す敦なのが。
いきなり子供じみてて何とも可愛かったし、
ああ同じなんだと、同じ想いでいる彼なのだと伝わって来て。
「あつし…。/////」
胸元から持ち上げた手をあらためて頬へと添えて、
なんて愛おしい人かと眩しいものを見つめるように、
思わず目許を細めた中也だった。
そういえば、
強引なことをして敦を傷つけないかと、
いつだってそれを一番に案じていた彼ではなかったか…。
シーツが擦れる音さえ、それは際立って大きく響くよな
そうまで静かな部屋の中で。
相手の鼓動が聞こえるくらい密にい抱き合い、
互いの肌へ…愛しいという甘やかな情愛のみならず、
我が物にしていいの?という恣意まで込めて触れるのは、
さすがに特別なそれだから。
肌と肌とで触れ合っていたくて、
どちらからともなく余計なものをかなぐるように脱ぎ捨てて
互いにシャツ一枚と下着だけという姿となっており。
だというのに、それでもやはり
慣れぬこととて、時折 戸惑うように中也の手が止まるたび、
敦が 含羞んで応じるというのの繰り返しで。
ここへ触れてもいいか?と視線で伺ってから
耳朶の下へと熱い指先がすべり込み、
ここへ吸い付いてもいいか?と、手前で止まることで伺ってから、
危ういくぼみの浮く 鎖骨の合わせに甘い微熱が降らされて。
依然として苛むような微熱に翻弄されつつも、それをもどかしいとは思わない。
日頃だって触れているはずの肩口や耳朶、
二の腕に触れることへまで躊躇する中也なのが
ちょっぴり焦れったくもあったが、
キスの前には必ず“いいか?”と訊くような人だもの、
そこは仕方がないのかも。
それに、
“不思議だなぁ。//////”
例えば胸乳に据わった小さな粒実のような乳首とか、
鍛え方が足りず、肋骨の縁の陰影が微かに浮いてる脾腹辺りだとか。
普段からも何てことなくシャツが擦れたり、
擦れ違いざまに誰かとちょんって当たったりするような場所が。
どうしてだろうか、中也がそおと触れると、
じりりとしびれて身をすくめたくなるよな感覚に襲われたりする。
女性でもないのに胸元を撫でられるとドキドキしたし、
粒実を指の腹でこねられると、ついのこととて、
「…あぅ。/////」
自分でも驚くようなか細くも甘い声が飛び出しもして。
好きな人から意識して撫でられるってこんなにも違うんだと
文字通りの我が身で思い知らされて、
そこが生み出す甘い感覚にこそ、いいように翻弄されている。
“手をつないだり髪を梳いてもらったり
触れ合うことは少なくなかったはずなのにね。”
当人たちはそれはそれは大真面目にドキドキしながらも、
ゆるりゆるりとした調子、
何かを紐解いているかのように触れ合っていたものが
「あ…。/////」
身じろぎした拍子、
二人の間で敦のシャツが大きくめくれ上がってたのは、
まるで思いも拠らぬこと。
そしてそこには、白い肌の上にそれは目立つ刻印が、
色こそくすんでいたがありありと覗く。
かつて、一方的な虐待を受けてつけられた刻印。
暖炉だったか旧い型のストーブだったか、
炎の中にくべられた灼熱の火掻き棒で付けられた古いやけどの跡。
抵抗なんて出来なんだ弱さを物語る、醜い象徴だからと敦は隠そうとしたが、
前向きなキミがもはや忘れかけてたほどのそれじゃないかと、
中也は勲章だと褒めた傷跡であり。
「……っ。」
刹那ほど息を呑んで固まっていたものが、
暖かな手をするりと這わせると、慈しむよう優しく撫でてから、
その場所へと顔を伏せた中也でもあって。
「…ぁ、んうっ。/////」
強く吸われた感触がちくと触れ、やわらかな唇が当たり、
はっと顔が火照る間もなく、ちりりという痛みが続けざまに与えられ。
そこから総身へ、淡い炎のような感覚が走り、
外へと突き抜けるようなほどの勢いで
指先やつま先へまで至った熱が、
そのまま熾火のように肌を灼いていつまでも熱い。
「……く…っ。///////」
こんな扱われようは、
さすがに敦としても初めてのことだったが、
微かにでも怖くなんかなかった。
他でもないこの人が、愛しくてやまぬこの人が、
こんな自分をと求めてくれるのが、嬉しくてたまらない。
総身が震えるほど煮えるほど、
恥ずかしいくらいに嬉しくてたまらない。
裏社会に生きるしかない身でありながら、
それでも気丈に彼なりに真っ直ぐ歩んで来た人が、
だからこそ、神々しいほど綺麗で凛々しい人が。
こんな自分を“欲しい“と求めてくれるなんて。
その身が無意識に動くほど 過ぎたる欲を止められず
その手がこの身を捕まえて、
誰にもやらぬと言わんばかりに抱きすくめてくれるのが
震えるほどに嬉しくてたまらない。
「ちゅ、や、さん…。///////」
これを罪だ間違いだというならそれも構わぬと、
自分とは違う色の髪や雄々しく頼もしい肩、
懐ろに掻きい抱いて、甘い痛みをじっと耐える。
脚と脚が絡まり合い、そのはずみで昂ったものが相手へ触れ、
思わずのこと、あ…っと一際高い声を放った敦だったのへ、
「……ちょっとキツイぞ?」
返事も待たずにするりとすべり込んできた手があって。
体中からじわりじわりと集まって来ていた熱が、
少しずつ宿って宿ったその末に
痛いほどの存在感を主張していた屹立へ。
迷いなく添えられた手が、
心得た形に指をずらせて そのままきゅうと握り込む。
「あっ、や…やあぁっ。」
此処まで直接的な、
しかも強烈な官能が襲い掛かるなんて思いもしなかった。
触れられたところは痛くもなくむしろ柔らかな扱い。なのに、
そこから一気に放たれたしびれるような熱い刺激は、
下腹をどんと突いてから全身へと拡散されてゆく。
足の裏や爪先がびりとしびれたし、
背中が一気に弓なりにしなって、あられもない声が喉から勝手に放たれる。
そうすることで強烈な悦の刺激を少しでも飛ばしたいと、
体が選んだそのまま執った行為という感があり。
本能的に逃げ出したくて、かかとが懸命に敷布を擦ったが、
それを基点に体がずり上がるのは不可能なこと。
中也の腕がそれはしっかと敦の腰回りを掻き抱いて離さないでおり。
内股へすべり込んでいる手も、
するすると指が手のひらが緩やかに動いては、
やさしいながらも容赦なく、
何かどこかを目指すようにその動きを辞めないままでいて。
「あ、あ、もう…あぁっ。」
視野の中が白く弾け、端からじわじわと銀色の細かい泡が舞い飛ぶ。
体の芯が溶け出しそうに熱くて、でも、
ぎゅうと抱きしめられているのが例えようもなく嬉しい。
触れている肌の鞣したような強かさも、
何処にもやらぬという強引で力強い拘束も、
胸の奥がじわじわと温かくなるほどに嬉しくて仕方がない。
体への刺激は敦の意識をぐんぐんと高みまで引き上げてゆき。
ただただ翻弄されてたままにいつの間にか集まり、
痛いほどの強さとなっていた熱塊が
ようやっと見つけた出口へとなだれ込もうとしている。
よほどにちゃんとぴったりタイミングが合わぬと出られぬか、
体の主をさんざん泣かせて苛んだそれは、
「……ぁ。////////」
ぎゅうと優しく抱きしめられて、もう一度唇を塞がれたそのはずみ、
敦の意識をこれ以上はないほど激しく掻き回しながら一気に飛び出してゆき、
「…敦? おい、あつし、しっかr……」
to be continued. (17.09.10.〜)
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*お疲れ様でしたvv
冗長なだけでちいとも色っぽくなくてすいません。
これで終わりとするつもりでしたが、
事後の会話とか書いてたら、なんか もちょっと再燃したので、
続きも微妙に年齢指定です、すいません。(てへvv)

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